中野公揮 (NØ FØRMAT / P-VINE) 独占インタビュー

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新世代のクラシック作曲家として知る人ぞ知る存在であった中野公揮が、ついに初リーダー作『リフト』をリリースする(2016年6月15日Pヴァインより日本先行発売)。それは、世界きっての広角型チェロの名手である、フランス人奏者のヴァンサン・セガールとのデュオによるもの。そして、アルバムの発売元はフランスの高感度レーベルである“ノー・フォーマ!”。その成り立ちからは、『リフト』は中野がフランスという属性と出会うことによって生まれた逸品と理解することもできようか。中野とセガールはどういう経緯で一緒に協調するようになったのか。パリ4区にある市が運営するアーティスト・レジデンスCité internationale des artsの練習室で練習していた二人を訪ねて、話を聞いた。

 

中野さんは、昨年からパリにお住みなんですよね?

中野「そもそもは、高校を出てすぐにパリに来ようとも思っていました。(高校は)桐朋に行っていたんですけど、留学の準備をしている時に作曲を始めて、やっぱり作曲を(東京藝術大学で)やろうと日本に残りました。そういう経緯はあったんですが、ベルリンには大学時代によく行っていたんです。知り合いがいたので年の3分の1ぐらいは行っていましたね。だから、ベルリンに移ろうと思っていたんですけど、パリに住んでいらっしゃる方が僕の東京でのライヴを聞き、その縁でパリのカフェで軽いライヴをやったらいろいろと繋がっていき、ノー・フォーマ!からアルバムを出せる事になったんです。それで、パリに来ました」

実際に来てみて、パリはいかがですか。

中野「大好きです。ゴンザレスの『Piano Solo』もそうだし、バラケ・シソコ(マリのコラ奏者)とヴァンサン・セガールのデュオ(の2作品。『チェンバー・ミュージック』と『夜の音楽』)もそうですし、ノー・フォーマ!は高校を出た頃から、僕の音楽の目指す可能性を社会に問う事ができると思わせる憧れのレーベルでもあります。そして、ヴァンサンが参加してくれるということであれば、こちらに住んで準備したいと思いました」

二人はどのように出会ったのでしょう。

セガール「まずは、先ほど話が出たノー・フォーマ!のローレン・ビゾから彼の楽曲を渡されました。それを聞いて、とっても難しいけど興味深いもので、ぜひ会いたいと思ったわけです。それは、2015年の2月ごろですね。そして、まず彼が僕のスタジオに来て、またその翌日には彼がヴァイオリニストとやったコンサートを僕が見に行き、さらに感銘を受けました。彼とは僕の息子ほどの年齢差がありますが、学んできたクラシック素養の中にポップやエレクトロ・ミュージックの要素を溶け込ませた音楽スタイルがとても気に入りました。僕はこれまで即興音楽をよくやってきましたが、これをきっかけにまた楽譜に忠実に演奏することを始められる、彼とやることは僕にとっても学ぶ点が多いだろうということで、一緒にやり始めました」

中野さんはヴァンサン・セガールのどんなところが好きなのでしょう?

中野「僕は、チェンバー・ミュージックをしたいんです。それは、クラシックのテクスチャーを使い、また一方ではフラットに他の音楽のテクスチャーを用いもするチェンバー・ミュージックというものなんです。でも、それを成就させるにはクラシックを基に持ちつつ、フラットに他の音楽も見ることができる人じゃないといけない。そういう人を探すのは難しいことで、その点においてヴァンサンはそれを標榜してきたパイオニア的存在であると僕は感じています。そんな彼を紹介していただけたというのは、一番の喜びでした」

それでは、お二人が一緒にやろうとする時点で、ノー・フォーマ!からアルバムを出すことも決まっていたのですね。

中野「ローランが、ソロのコンサートに来てくれたことがあったんです。その時、チェロとやる曲があると伝えたら、ヴァンサンが弾くならウチから出していいと言われたんです」

お二人で演奏する曲は、すべて中野さんが書いた曲ですよね。その時点で、曲は書き上げていたんですか。

中野「いや。曲はたくさんあったんですけど、ヴァンサンとやれるということで、そこから1年ほどかかっています」

セガールさんは楽譜をもらって、どういう印象を受けました?

セガール「実のところ、僕はクラシックの人たちが書く曲に飽き飽きしていました。ところが、彼は有名な音楽家の様々な作風をよく知っており、ベースにあるクラシックの素養を崩すことなく、その上に自分ならではのスタイルをうまく作っている。10曲ほどの曲を見て、そういう部分に惹かれました」

一緒にリハーサルを始めるようになり、セガールさんからフィードバックはあったのでしょうか?

中野「いや。驚いたんですけど、私はこれについては演奏者に徹するという姿勢を貫いていらっしゃる。ここまで即興をやり、曲も作られる方なのに、このプロジェクトで彼は演奏者、解釈者に徹しているんです。でも、それも彼がプロフェッショナルであるがゆえですね」

チェロとやる曲を書くというのは。どういう留意点があるのでしょう?

中野「まったくアコースティックな楽器のデュオということで、なかなか難しいですね。僕は作曲し始めた時から、チェロとのデュオのための曲を書いているんです。というのは、チェロのいい友人に恵まれたということもありますし、チェロという楽器の持つ高いポテンシャルに魅かれるからです。ところが、ヴァイオリンのようにチェロにも素晴らしい奏者がいるにもかかわらず、チェロはソロ楽器としての側面はそれほど発達していないとも思っています。また、チェロは音域が広く、ベースの役割も、ファルセットの役割も全部できてしまう。僕にとっては、あまりに魅力的な楽器ですね」

では、チェロは作曲の可能性を広げてくれる楽器であるわけですね。

中野「そうです。まだまだ多くの可能性があると思うし、本当に僕の中ではまだまだやれることが沢山あります。そして、一つはっきり言えるのは、ヴァンサンのようなピチカート演奏は他のチェロ奏者は誰もできないということですね。チェロにおいてヴァンサンのような弾き方ができるというのは、もう一つの楽器を使えるぐらいの重みを持ちます。そこで、さらに僕の曲作りは広がっていくわけです」

セガールさんは演奏者に徹しても、中野さんの曲をやるというのは喜びを覚えるものなのですね。

セガール「演奏者に徹すると決めたら、僕は作曲家のために尽くすのが好きなんです。作曲家によっては、少しやっただけで嫌になる人もいます。でも、彼は何がやりたいかというのが明晰に分かっていてそこが素晴らしいし、僕としてはとても嬉しく演奏させてもらっている。かつては作曲家であっても演奏家としても活動していたケースが多かった。でも、今はそういうことがほとんどなくなってしまっています。そして、彼の場合は作曲家でありつつ自ら演奏しているというところにも、おおいに魅かれますね」

演奏を聴くと、そこには広がりや発展があって、即興が介在しているような感覚も得てしまいます。でも、即興は全然ないんですか?

中野「ないです。それが面白いところで、調性のある音楽の発展というのは、今ジャズの方に移っています。クラシックはもうノイズと無調の方に行ってしまっているので、そこにも僕は可能性を見つけています」

佐藤英輔(音楽評論家)

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